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現代の停滞はWebだけに限らない

今はWeb停滞期なのかのエントリでつらつらと今のインターネット界隈の停滞について書きましたが、ふと考えてみると、停滞しているのはなにもWebだけではないことに気が付きました。特に音楽、映画といった世界でも似たような現象が顕著に起きています(あえて言うなら政治もですが・・・)。

そして、その停滞はやはりインターネットと密接に関係していた、という事に気が付きました。

音楽

音楽と映画についてはやはり米国の影響を抜きに語れません。元々、ヨーロッパの上流階級ではバッハやベートーベンのようなクラシック音楽が「音楽」であり、同時に各地で民謡や独自の民族音楽が存在していました。

アメリカと現代音楽

大きな転機は、やはりアメリカ合衆国の登場からです。初期は、ヨーロッパ各地からの移民で成り立つ国ですから、ヨーロッパ各地の民謡民族音楽アメリカにおいてごっちゃになります。そして、アフリカから奴隷として無理やり連れてこられた黒人たちの存在があります。

厳しい環境におかれていた黒人たちは、ゴスペル労働歌など起源とするブルースを生み出します。ヨーロッパの民謡などの流れをくむ民謡からはフォークソングが生まれます。

その結果、フォークソングとブルースが交じり合ってロックが生まれます。近代のポピュラー音楽の基礎がここにあると言っても過言ではないでしょう。クラシックの影響を受けた黒人の音楽は、ジャズも生み出します。

その後、ブルースの流れをくむR&Bソウルも登場しました。さらに、R&Bやソウルとラテンの影響を受けた、ジャマイカスカなどを源流とした、レゲエが登場します。ラップヒップホップも誕生します。2000年前後はテクノトランスと言ったエレクトリック音楽も登場します。ディスコクラブダンスも含めて良いでしょう。

現在

さて、2000年代に入って以降、パッタリと新しい音楽のトレンドは登場していません。あえて言うのであれば、昔の音楽をエレクトリックでアレンジしたものが登場しています。例えば、ジャズとエレクトリック音楽の融合でエレクトロ・スウィングが登場しヨーロッパを中心に人気になった(自分も良く聴きます)りしています。しかし、このタイプは、アレンジやミキシングをしただけのエレクトリック音楽または軽いジャズに過ぎない、という考え方もあるでしょう。

こうして振り返ってみると、フォークソングやロック、ラップ、というものが当時の社会に対する(反抗の)メッセージであったり社会そのものを反映するものでした。

すると、音楽というものが、大衆における社会的に大きな影響力をもつものであった2000年代以前と、インターネットの台頭で社会的影響力が音楽からインターネットに移り始めた2000年代以降、と区切りを入れる事も可能かも言えるかもしれません。

つまり、社会的にある程度安定し、インターネットの登場によって音楽の持つ影響力が失われた結果、音楽の活力が失われて新しい音楽が登場しなくなった、と言えるのではないかと。

映画やドラマ

映画の世界といえば、「ハリウッド映画」を抜きに語れません。ハリウッドのスタディオで制作し、全米を始めとして世界の映画館に向けて配給するのが本来の「ハリウッド映画」です。

「ハリウッド映画」の衰退

ところがもはや「ハリウッド映画」、なるものは成り立ちにくくなっています。2010年代半ばから、Netflixといった独立系のストリーミングサービスが登場し、独自にドラマや映画を製作から配信まで行うようになりました。また、既存のケーブルチャンネルであるHBOも独自に制作したコンテンツをストリーミングで配信し始め、既にコンテンツを持っているディズニーなどもストリーミングサービスに自ら参入しています。

一方で、莫大な製作費と広告宣伝費を使って世界の映画館に配給するという「ハリウッド映画」のスタイルの映画は、過去の焼き直しが増え、質の低下も目立ち、人口の多い中国をターゲットにしてアジア人の優先的な採用などをするなどといった小手先な受け狙いが目立ち、以前のような影響力はもはやありません。なので、「ハリウッド映画」に限って言えば、停滞というより衰退と言っても過言ではないかもしれません。

映画やドラマに全般で言えば、ストリーミングサービスによる独立系の制作によって、ド派手さはないとしても、多様で非常に質の高い優良なコンテンツが分散化して増えたとも言えるので、衰退というほどではなく、健全化しただけかもしれませんが、転機であることは間違いありません。

結論

こうしてみると、音楽も映画も、インターネットの普及に伴って、大きな変化があった、という事が分かります。逆に言えば、インターネットのテクノロジーに依存したWebで何が起きるかによって、音楽も映画も大きく変わるかもしれない、とも言えます。

もっとも、インターネットで個人の趣味趣向が分散化して、単に昔のように皆が同じようなコンテンツを消費する時代ではなくなった、という事も言えるでしょう。結果として停滞しているように見えるのは残念ですが。

未来の事は分かりませんが、インターネットの双方向性を活用したインタラクティブなものが出てくるのかもしれませんし、VR・AR的な何かが進展して大きな転機が訪れるかもしれません。今は単なる停滞期なのだ、と考えて、未来に期待しましょう。

Webでの停滞がボトルネックになって、全てが停滞するようなことになっては残念です。

 

余談:

未来と言えば、中国やロシアと言った国々が世界で影響力を増してインターネットが監視と検閲を受ける社会が到来したとして(香港などは現在進行形ですが)、人々が表のインターネットから逃れて、裏のオルタナティブWebでアンダーグラウンドのネットワークを新たに作る近未来SF的な話しもあり得ない事では無いな、などと思ったり。

 

歴史上、音楽や文学といった芸術は、抑圧や悲劇から生まれるパワフルなものだった例が多いです。混乱や抑圧による悲劇を新しい創作の源泉として転化していくのは近代ではアメリカの専売特許でしたが、今後はどうなっていくのでしょうか。