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日本の「電子マネー」というデジタル後進性

前のエントリでチラっと触れた、日本における「電子マネー」という言葉について、改めて書いておきたいと思います。

そもそも、日本では、単なる「電子的に支払い(決済)」するという手段の話しを「電子マネー」と呼んでしまったりするのでさらに混乱します。手段を通貨と混同してしまっているのです。電子マネーと言ってもあくまでも法定通貨である普通の円を使っている事に変わりありません。

「仮想通貨」という呼称は止めて、「暗号通貨」と呼びましょう - torum

 

英語で「電子マネー:electronic money」なんて表現は普段使いませんし、electronic money と言ったら、ビットコインという暗号通貨が登場する以前の、「Ecash」とか「DigiCash」とかの、(ドルでも円でもない)デジタル通貨の事を連想します。

実際、英語版の本家ウィキペディアで、デジタル通貨の項を見ると、「Digital currency (digital money, electronic money or electronic currency)」とあって、「デジタル通貨」も「デジタルマネー」も「電子マネー」も「電子通貨」もすべて同義語扱いです。つまり全部同じ事を意味します。対して日本では、そして日本版のウィキペディアでは、デジタル通貨、と電子マネーは、別の項に分けられていてそれぞれ別の意味があります(しかも「電子マネーは...支払手段の一種...ただし、定義は必ずしも一様ではない」とか書いてある)。(<ウィキペディアを少し修正しておきました。)

そう、日本では決済手段と通貨を混同してしまっているのです。英語圏で「デジタル通貨・電子マネー」と言えば、現代ではビットコインを代表とする暗号通貨やCBDCの事を意味します。

昨今、「日本では電子マネーやキャッシュレスの普及が遅れている」なんていう言説が盛んに言われていますが、何を言っているのやら、と。まず第一にそもそも言葉の定義が違うのに比較も何も出来ないだろうに、と思う訳です。

英語圏などでは、クレジットカードやデビットカード決済で広く電子決済が行われてきました(普通に小切手も同じぐらい使われている)。そのせいで、消費を煽るばかりの、借金漬けで、クレジットヒストリーを常に気にするような社会ってのも大きな問題です。寧ろ、そういうのを警戒してきた日本人は賢かったとも言えます。偽札や強盗を心配するような治安問題なんて海外では日常茶飯事ですが、日本ではごくごく少ないですし。

一方日本では、交通系SuicaPasmo、コンビニ系のnanacoなど、むしろ乱立気味に普及しています。QRコードで支払いしている中国すごい?なんてニュース、オカシイです。

「日本では電子マネーやキャッシュレスの普及が遅れている」という言説は、大抵、「日本ではクレジットカード払いの需要が少なかった」、というだけの事に過ぎません。(あと、大規模チェーン店が支配的な米国と異なり、個人商店が生き残っていけた日本)

対して、最近の日本におけるIT系企業による大規模なキャンペーンによって、「PayPay、楽天ペイ、LINE Payを使ってキャッシュレスの電子マネー(キャピ)」というのは、あくまでもユーザーを囲みこみたいだけの企業の広告の宣伝文句に過ぎず、ポイント還元などを組み合わせただけの囲い込み商法で、何一つ新しい事はありません。寧ろ、ベンダーロックインのように、特定企業に囲い込まれるという弊害だけがあります。

日本が遅れているのは、そういう企業の宣伝文句に騙されて、「PayPay、楽天ペイ、LINE Pay」みたいなのを使って「きゃしゅれすの電子マネー」と勘違いして「進んでいる」と誤解してしまう事です。世界から見れば、そんなのクレジットカードやデビットカードで何十年も前から同じ事が出来てたんですけど・・・という話しなのです。

日本で言う「電子マネー」というのは、単に再チャージの出来るプリペイドカードにすぎず、乗車券や自販機で主に使うもの、という認識。スマホで使うなら単に、スマホ決済というだけであります。

海外では、「電子マネー=デジタル通貨」であって、今は、今後ビットコインを代表とする暗号通貨をどう取り込んでいくか、CBDC(中央銀行発行デジタル通貨)をどうするか、といった話題がホットトピックなのです。

自分は普段、英語のポッドキャストやニュースに浸っているのですが、たまに日本の動向を調べると、非常に悲しくなります。英語では日常的な経済ニュースでは「電子マネー=デジタル通貨=ビットコイン等」として、そういう話題が頻繁に登場します。関連するのは米国や中国の動向ばかりで、日本は一切登場しません。

悲しいことです。

 

追記:たまたまこんな記事が目に入ったのですが、デタラメぶりに目を覆いたくなります。

「仮想通貨」「ドル」「金」「株」、じつは“一番安心できる”のは…? プロの「意外な答え」(大原 浩) | マネー現代 | 講談社(1/6)

 

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仮想通貨(暗号通貨)、電子マネーなど新しいタイプの「お金」の議論が花盛りだ。この新しいタイプの「お金」は概ね2つに分けられる。

1. 既存の通貨システムとは基本的に切り離されているお金。ビットコインなどの仮想通貨が典型。
2. 既存の通貨システムの上に乗り、そこから派生する形で生まれるお金。ペイペイなどの電子マネーは基本的にこのタイプ。フェイスブックが企画して頓挫したリブラもここに含まれる。

ペイペイとFacebookのリブラが同じタイプ?この大原 浩氏という「プロ」は一体何を言っているのでしょうか。

バスケット方式で裏付ける「暗号通貨」だったリブラと、単なる日本円の電子決済手段に過ぎない日本円そのままの単なる決済サービスであるペイペイを、「同じタイプ」と解説するのは、基本的な勘違いとかいうレベルではなく、日本人を騙す、詐欺的なレベルかと・・・ペイペイからお金でも貰っているのでしょうか。

こういう言説が堂々と「専門家」から垂れ流されている現状は、まさに私が指摘しているように、日本のデジタル後進性を表していますね。

 

続き:

torum.hatenablog.com